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2021-06-10 兵庫県弁護士会の会長声明「『重要土地等調査規制法案』の廃案を求める会長声明」について
 
 
2021年6月8日に発出された兵庫県弁護士会の会長声明「『重要土地等調査規制法案』の廃案を求める会長声明」について解説します。

Q どういう声明なんですか。
A 重要土地等調査規制法案は,立法事実が十分でなく、政府によって「重要施設」や「注視区域」に指定された場合には、県内の広範な地域の住民や施設利用者・関係者に対する無限定な監視につながりかねず,基本的人権を侵害するおそれがとても大きいので、今国会での廃案を求める、という声明です。

Q 法案の正式名称を教えてください。
A 正式には、「重要施設周辺及び国境離島等における土地の利用状況の調査及び規制等に関する法律案」といいいます。

Q わが国の安全保障のため,基地や国境離島の機能を確保するための立法は、必要なんじゃないんですか?
A それは、そうなんだろうと思います。

Q じゃ、なんで、反対するんですか。
A 重要土地調査規制法案は,必要な限度を超えて,一人ひとりの市民に対する無限定な監視につながりかねない内容で、基本的人権を侵害するおそれがとても高いからなんです。

Q 重要土地調査規制法案では、「重要施設」や「国境離島等」の機能を阻害する行為を防止する目的で,内閣総理大臣は、どんなことができるんですか。
A まず、重要施設のある地域を、「注視区域」や「特別注視区域」に指定して、その区域内の土地や建物の利用状況を調査することができるんです。そして、重要施設の機能を阻害するおそれがあると認めたときには,その利用者に対して利用中止等の勧告や命令をし,土地等の買取りすることもできるんです。

Q それは、なんだか、安心感があってよいように思うのですが、違うのでしょうか。
A そう思いますか? でも、「重要施設」や「国境離島等」の機能を阻害する行為を防止するという立法目的は、曖昧すぎると思いませんか。

Q たしかに、そうですね。これまで、自衛隊基地周辺の土地が外国資本に買われて基地機能が阻害されたことはあるのですか。
A これが、「確認できていない」って、5月21日の衆議院内閣委員会で、政府が答弁しているんです。

Q そうなんですか。それじゃ、立法事実が確認できない、ってことじゃないですか。
A そこが問題なんです。それだけじゃありません。重要土地調査規制法案は、重要施設として、自衛隊や米軍基地、海上保安庁などに加えて、「国民生活に関連を有する施設であって,その機能を阻害する行為が行われた場合に国民の生命,身体又は財産に重大な被害が生ずるおそれがあると認められるもの」を対象としています。

Q 具体的にどんな施設が入るんですか。
A 「国民生活に関連を有する施設」で重要なものは、全部、対象にできるんです。

Q 例えば、どういう施設でしょうか。
A 例えば,原発などの発電所、情報通信施設,銀行、航空、鉄道,ガス,医療,水道など,ありとあらゆる重要インフラ施設は何でも指定できるんです。

Q 神戸空港も伊丹空港も、JRも、入るのですか。
A 総理大臣が、そうしたいと思えば、入るんです。そして,「重要施設」の「敷地の周囲おおむね千メートルの区域内」が「注視区域」として指定されるんですね。

Q 注視区域っていうのは、注意深く監視する、どういうことですよね。何ができるんですか。
A 「注視区域」では、内閣総理大臣は、「土地等の利用者その他の関係者の氏名や住所その他政令で定める情報の提供を求めることができます。

Q じゃ、集合住宅の賃貸人の名簿や、公民館を利用する主催者の名簿を提出させられるんですか。
A はい。できます。利用者だけじゃないですよ。公民館を利用する市民集会の参加者や、その家族も、「関係者」として、調査できるんです。

Q 知らないうちにですか?
A そうです。同意はいりません。しかも、内閣総理大臣に対する情報提供義務は,協力しないと刑事事件になるんです。
Q 自分の利用関係に関する調査でもですか。
A そうです。

Q それじゃ、重要施設の側には、住みたくないですねー。
A でしょう。重要土地調査規制法案は、「注視区域」内の不動産の所有者に対する財産権や居住移転の自由の制約となりうるんです。

Q それだけじゃないですよね。「注視区域」内の公民館で市民集会を開催しようとすれば、主催者だけじゃなく、参加者やその友人も、プライバシーや思想・良心の自由、集会の自由を侵害されませんね。
A そうなんですよ。内閣総理大臣は、集会が重要施設の機能を阻害すると判断した場合には、集会の中止を勧告することができるですが、従わない場合は、刑事事件になるんです。

Q 兵庫県には、注視区域、その注意深く監視する区域はあるんですか。
A はい。陸上自衛隊の施設では、伊丹駐屯地、姫路駐屯地、青野原駐屯地、川西駐屯地,海上自衛隊では、神戸市にある阪神基地隊があります。それと、政令で指定される「国民生活関連施設」の周囲1キロ以内の地域が、注視区域、注意深く監視される地域になる可能性があります。

Q めちゃくちゃこわいですね~。
A はい。ですので、この重要土地調査規制法案は、基本的人権を侵害するおそれがあるし、重要ですので、十分な国民的議論を深める必要があるのです。それで、兵庫県弁護士会では、今国会では、廃案とすることを求めているんですね。

この記事は弁護士吉江仁子が担当しました。


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