弁護士 濱本 由
皆さんは離婚後300日問題という言葉を聞いたことがあるでしょうか?
民法には、婚姻の解消または取消後300日以内に生まれた子は夫の子と推定するという規定があります(嫡出推定)。つまり、夫との離婚が成立してから300日以内に生まれた子供は、別の男性の子であっても、法律上、離婚した夫(以下「前夫」といいます。)の子と推定されるのです。
この法律により、長期間の別居中に、新たなパートナーに出会い、妊娠、出産した場合でも、出産が前夫との離婚成立から300日以内であれば前夫の子として戸籍に記載されてしまうことがあります。しかし、生まれてきた赤ちゃんや母親、実父、そして前夫にとってもこのような状態は歓迎できません。
そこで、このような戸籍の記載を回避するための方法を以下にご紹介します。
⓪医師の証明
まず、医師に、女性が妊娠した日を推定した証明書(懐胎時期に関する証明書)を発行してもらい、出生届とともに提出する方法があります。証明書によって妊娠日が離婚成立日より後であることがはっきりすれば、前夫の子であるという推定は及びません。
しかし、妊娠日が離婚成立前であった場合にはこの方法を使うことができません。そして、このような場合に、赤ちゃんが前夫の戸籍に記載されることを避けるために出生届を出さず、赤ちゃんが無戸籍になってしまうことがあります。以下に、このような無戸籍状態を解消するためにとることのできる方法をご紹介いたします。
①嫡出否認調停申し立て
まず、前夫に「嫡出否認」の調停を申し立ててもらう方法があります。
これは、前夫が、「生まれてきた赤ちゃんが自分の子であることを否認」する調停です。しかし、この調停を申し立てられるのは前夫のみで、申立期間も子供が生まれたことを知ってから1年以内という制限があります。何より、離婚することとなった前夫に調停を申し立ててもらう必要があり、利用するにはかなりハードルが高い制度です。
②親子関係不存在確認調停
次に、母親側からも申立の可能な「親子関係不存在確認」調停があります。
父子関係を否定するために上記①の方法しかとれないとすると、前夫の協力なくしては父子関係を否定することができなくなります。しかし、その不利益はあまりにも大きいので、長期別居などの事情がある場合には、母親側から「父子関係が存在しないこと」の確認を求めることができると判例上認められてきました。ただ、調停の相手方は前夫となりますので、前夫の協力が必要である点でやはり利用しやすいとはいえません。
③強制認知
最後に、実の父親が赤ちゃんの認知を求めて調停を起こすという「強制認知」の方法があります。これは、前夫が関与しない方法ですので比較的利用しやすいといえます。ただ、裁判所が必要と認めた場合には、前夫が調停に関与することもあります。
①~③のいずれについても、通常は、事実経過や当事者の意見を聴取するほか、DNA鑑定(①②は前夫と赤ちゃん、③は実父と赤ちゃん)を実施し、裁判所がその結果を踏まえて父子関係の存否を判断します。申立の内容が正当と認められれば、赤ちゃんの戸籍上の父親が実父と認められます。そして、裁判所が作成した審判書及び確定証明を出生届とともに提出すれば、無戸籍状態が解消されることになります。
5.最後に
戸籍制度の是非についてはいろいろな意見があると思います。
ただ、お子さんに戸籍がなく不安な思いをされている方、一日も早く戸籍上実父の子と認めてもらいたいと思っておられる方は、是非一度弁護士にご相談ください。
以 上