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あいおい法律事務所の弁護士によるブログです。
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2020-01-31 1月21日、最高裁で弁論しました!~ノーモア・ヒバクシャ訴訟~
 
 
弁護士 藤原 精吾

 藤原が全国弁護団長を務めているノーモア・ヒバクシャ訴訟で、1月21日最高裁判所第3小法廷で口頭弁論が開かれました。当日、広島と愛知の被爆者2名と長崎、広島、名古屋の弁護士、全国弁護団から藤原が弁論を行いました。
 判決は2月25日15時から言い渡されます。被爆者の援護と核兵器禁止条約加入の実現に御協力下さい、
 弁論の要旨は以下の通りです。
【弁論の要旨】
1,本件は最高裁判所が被爆者にどう向き合うのかが問われている事件です。
 裁判所は「国民の基本的人権を擁護するために柱となるべき立場にある」とハンセン病刑事事件の開廷場所をめぐる、最高裁判所裁判官会議談話で述べられました。被爆者となった国民の人権を擁護するために、裁判所がいかなる立場を取るかが問われているのです。
2,私の述べたいことは、次の3点です。
(1)被爆者援護法上の「医療」をどのように解するかは、臨床医学を元としながらも、法律解釈としては広くも、狭くも判断できます。問題はその判断をどのような観点で決めるのかが問われているということです。
(2)これを決めるためには、被爆者援護法の解釈適用について、国の立法、行政はどのような態度を取ってきたのか、これに対して裁判所はどのように被爆者の人権を守ってきたのかを、歴史的に振り返ってみるということです。
(3)3つめに、今回の最高裁判所の判決は、国際社会に対し、被爆者と核兵器に対する日本の方向性を世界に示す意味があるということです。
3,被爆者に対して、戦後12年間、国は何の対策もしてきませんでした。12年間の沈黙が破られ、昭和32年に「原爆医療法」が制定されるには、ビキニ水爆実験で大量の被爆者が発生し、これに抗議する被爆者と市民の運動が必要でした。
 昭和30年に提訴された、下田原爆訴訟で裁判所は「戦争被害につき、立法が必要であり、原爆医療法程度のものでは、とうてい原子爆弾被害者に対する救済、救援にならず」、「本訴訟を見るにつけ、政治の貧困を嘆かずにはおられない」と述べて、判決で国の責任を指摘し、被爆者援護の充実を促しました。その結果、昭和39年4月、衆議院本会議で「原爆被爆者援護強化に関する決議」がなされ、その後被爆者特別措置法の制定に至りました。
(2)しかし厚生大臣は、在外被爆者に対しては「被爆者健康手帳」の交付をしませんでした。広島で被爆した孫振斗氏が手帳の交付を求めて提訴した訴訟で、福岡地方裁判所は「被爆者はどこにいても被爆者」として交付拒否の行政は違法であると明言しました。この孫振斗事件の上告審で、最高裁判所は「原爆医療法は、実質的に国家補償的配慮を制度の根底に有し、被爆者の置かれている特別の健康状態に着目してこれを救済するという人道的目的の立法である」と述べたのでした。
(3)その結果厚生省は、在外被爆者にも被爆者健康手帳を交付することとしました。しかし、日本を出てしまえば、健康管理手当等の受給権は失権するという姑息な行政取扱を定め、平成7年に被爆者援護法が施行された後も、失権取扱が継続されたのです。これに対して「郭貴勲事件」が提起され、裁判所は、被爆者は本国に帰ろうと被爆者である地位を失わない、として手帳効力停止行政の違憲・違法性を指摘し、これに対して国家賠償を命じました。
(4)原爆症の認定についても、行政は、放射線起因性の判断を、極めて狭く解し、認定対象疾病を限定し、直爆線量で認定対象を限定し、残留放射線被曝、内部被曝を無視するという「被爆の実相」を見ない行政を続けてきました。
 松谷訴訟で最高裁判所は医学的相当因果関係を直接的に証明することが困難な事案についても、被爆とその後の健康状態の経過を総合判断して、放射線起因性を認定できるとしました。にも拘わらず、厚生労働大臣はこの司法判断に従うどころか、逆に認定の門を狭める「原爆症認定基準」を作りました。その違法行政に立ち向かったのが原爆症認定集団訴訟です。
 全国16地裁で提起された、被爆者306名による「原爆症認定集団訴訟」では、松谷最高裁判決に基づき、放射線起因性は、認定基準を機械的に適用するのではなく、被曝の実相とその後の健康の推移を「総合判断」して放射線起因性を判断すべきだという大きな流れを作りました。集団訴訟では厚生労働大臣の却下処分の91.1パーセントが取り消しを受けました。50名を超える全国の裁判官が原爆症の司法判断の大きな流れを作り、行政の認定基準そのものに大きな誤りがあることを明らかにしたのです。これが政権を動かし、ついに2009年8月6日広島で、内閣総理大臣は被団協との間で「原爆症認定訴訟に関する8.6合意」を結びました。そして内閣官房長官は、「19度にわたって、国の原爆症認定行政について厳しい司法判断が示されたことについて、国としてこれを厳粛に受け止め、この間、裁判が長期化し、被爆者の高齢化、病気の深刻化などによる被爆者の方々の筆舌に尽くしがたい苦しみや、集団訴訟に込められた原告の皆さんの心情に思いを致し、これを陳謝いたします。」との談話を発表したのです。
(5)「8.6合意」では、「今後、訴訟の場で争う必要のないよう、この定期協議の場を通じて解決を図る。」との約束がされました。しかし、その後福島原発事故が発生し、放射線被害の認定をにらんで、厚生労働大臣は被爆者の放射線被害への援護行政について、懲りずに巻き返しを図っています。放射線起因性で負けたら、今度は「要医療性」で入り口を狭めようというのです。これにより原爆症認定を減らし、「要医療性」が無くなったと言って追い出しを図っています。国は「8.6合意」に反し、被爆者を訴訟に追い込んでいます。内閣総理大臣が被爆者と合意したことの法的責任はどうなるのでしょうか。
(6)被爆者の最後の拠り所が裁判所です。以上述べたのは、違法な行政を、司法が人権擁護の観点で正してきたという歴史です。
 75年前、この世界の片隅で平穏な暮らしをしていた人びとが、一瞬にして、いのちと健康を奪われたのです。生きのびた人びとも「被爆者としての人生」を歩まされたのです。その意味をわかって下さい。高齢となり、病に冒された被爆者が原爆症認定を求めるのは、お金ではありません。国の原爆症認定は、一人で背負ってきた被曝による差別と健康不安に、国が向き合い、被曝による被害を法的・社会的に認めることなのです。
 核兵器廃絶は人類の課題です。核兵器禁止条約の加入を拒否する日本政府の態度に世界各国から疑問符が出ています。核兵器廃絶の原点は被爆者が体験した、被爆の実相です。被爆者の訴えに耳を傾けることが必要です。
 被爆者に対して日本の最高裁判所が如何なる態度を示すか、全世界が注目しています。裁判所が政府の誤った被爆者行政を正してきた歴史を今一度想起し、判決で日本の行くべき道を示されることを求めます。
以 上