弁護士 藤原 精吾
皆さん、「優生保護法による強制不妊手術」を知っていますか?
旧優生保護法は、「不良なる子孫の出生を防止すること」を目的として1948年に制定され、1996年まで48年間にわたって施行されました。遺伝性精神病や身体疾患だけではなく、ハンセン病も含め、審査会の決定で男女を問わず,生殖を不能とす手術(優生手術)や人工妊娠中絶を行ってきました。また医師が認定すれば同意させて手術をしてきました。兵庫県では1962年頃「不幸な子どもの生まれない運動」を展開し、この手術を行ってきました。
昭和24(1949)年から平成8(1996)年までの間に,審査により行われた優生手術は約1万6500件、形ばかりの「同意」により行われた手術を含めると2万5000人を超える人が手術されてきました。
これは、子どもを産み育てるという権利を国が一方的に奪うという重大な人権侵害です。
その後、遺伝性についての疑問、障害者差別となるとの指摘を受け、ようやく平成8(1996)年に「不良な子孫の出生防止」に関する条文,遺伝性疾患・精神病を理由とした手術を認める条項が削除され、母体の保護のためだけに妊娠中絶を認める法律「母体保護法」となりました。
強制手術の法制を廃止した後、その被害の回復を行う立法を求める声に政府は沈黙し、1998年には国際人権(自由権)委員会から、日本は補償立法を行うべきであるとの勧告を受けたにもかかわらず、政府は「当時は適法に行われた」と無視してきました。2015年仙台の被害女性が日弁連に人権救済申立をし、2017年2月日弁連は、「政府は旧優生保護法により行われた優生・中絶手術についての実態調査を速やかに行うべきである」との意見書を発表し、これを機に宮城県から優生手術の記録が発見され、これを元に2018年1月、仙台の被害女性が国に対して損害賠償請求訴訟を提起しました。これが全国の反響を呼び、弁護士会で電話相談をし、被害者弁護団ができました。兵庫県では聴覚障害者協会がこの問題を取り上げ、取り組んでいます。あいおい法律事務所では藤原、大槻、吉江の3人が弁護団に入り、今年9月28日4名の聴覚障害者が原告となって神戸地裁に提訴しました。
この国賠請求は、旧優生保護による強制不妊手術は個人の尊厳を侵し、子どもを産む産まないを決める権利を侵害した基本的人権侵害(憲法13条、14条などの違反)を指摘しています。
裁判は12月26日に第一回期日が開かれ、始まります。被害の補償を行う法律を制定する、超党派議員連盟の動きも始まっています。
この裁判は被害を受けた人の権利回復のためだけではなく、障害者虐殺のやまゆり園事件、「LGBTは非生産的」という杉田水脈議員発言、国や企業に役立つかどうかで人間の価値を決める「優生思想」を乗りこえていく運動です。障害者権利条約は、人それぞれの多様性を認め、障害のある人が完全参加と平等を保障され、いかなる差別もない社会に変えていくことを目的としています。私たちは全国の弁護団と共同して、被害の回復と障害者と共に歩む社会を作るために活動します。