第60回人権擁護大会シンポジウム(第3分科会)開催報告 3
琵琶湖がつなぐ人と生きものたち~市民による生物多様性の保全と地域社会の実現をめざして~
弁護士 吉江仁子
(6)パネルディスカッションII ~「どうしたら身近な自然を守れるか~我が国の法制度について考える~」
小倉弁護士より、現場と生物多様性基本法の乖離を感じる、土砂の適正処理に関する条例では、安全性の配慮はあるが、埋められるその場所にどんな生物多様性があるのかについての配慮がない、希少生物の生息地が、残土で壊されてしまうとの問題点が指摘されました。北川湿地の際には、民事訴訟で土砂条例の許可を取り消してくれと求めたが、土砂条例には、生物多様性配慮義務がないということで、原告適格もなく、門前払いをうけたことが紹介されました。
大久保氏からは、淀川水系流域委委員会のようなやり方は、いいのはわかるけど、そんなの無理だよって思われるかもしれないが、後から紛争になる法が、よほどコストがかかる。予測可能性が損なわれて、投資の安定性が失われる。自然に配慮して紛争をさける=効率的という共通認識をつくっていくことが大事であるとの指摘がありました。
宮本氏は、公共事業でもめているとの相談を受けるが、事業者が、住民の疑問に答えない、データを出さない、という問題があると紹介されました。事業主体以外の人に、事業をとめる権限がないのが問題で、もし、それがあれば、事業者は、一生懸命に説明する。最後は、裁判所が、「住民の疑問、知る権利に答えてない、そんなことでは、事業は進められない。」と言ってくれたらいい。との提案があり、オーフス条約。日本で締結できないのは、なぜかという疑問が提示されました。
それを受けて、大久保氏は、情報公開法のときのような、国民のすごい運動がないと、オーフス条約への日本の加盟は難しいだろうとの見解を話されました。
小倉弁護士からは、「これは、人権問題。日弁連も、きちっと、意見表明していく。」との決意が話されました。
(7)会場からの質問
ア 淀川流域委員会の取り組みが行政に影響を与えたか、との質問に対し、宮本氏は、傍聴者とも意見交換する、最大500名の傍聴者がいた。これを体験した職員がいっぱいいる。本当は、流域委員会でやったことをやりたいと思っている、これから、また変わっていくと思う、と答えました。
イ 原告適格が拡大した場合に、訴訟は増えるのか、金もマンパワーもかかるが、との質問に対し、吉田氏は、日本の寄付者はお金の使い方に厳しい、寄付者の理解を得られるかどうか、と答えました。大久保氏は、オーフス条約加盟国では、実際に環境訴訟が起こり勝訴している。支持を得たものを訴訟にしていると思うと話しました。
(8)パネリストのまとめの発言
小倉氏は、環境教育を義務教育に組み込むことが必要で、そうしないと国民の意識が変わらないと述べました。
宮本氏は、京都市内から比叡山が見えるが、市民にはその向こうに琵琶湖があるという感覚がない。琵琶湖の水を飲んでいる子供達に琵琶湖で海の子・山の子をしてもらうのが大事。そういった子供が大きくなってきたときに、世論の盛り上がりが達成できる、と述べました。
4 決議
本シンポジウムを受けて、日弁連では、翌日に行われた人権擁護大会で、以下の国及び地方公共団体に対する要求を含む決議文を決議しました。
(1)国及び地方公共団体は以下の立法措置を採ること。
①国及び地方公共団体は、生物多様性に影響を及ぼすおそれのある事項に関わる法令を制定するときは、生物多様性の保全について配慮すべき旨の条項を設け、既存の法令にその旨の規定がないときは、改正してその旨の条項を設けること。②国は、生物多様性基本法を改正し、生物多様性に影響を及ぼす行為については、回避・最小化・代償という順序により影響を緩和する措置を実施すべき旨の制度(以下「ミティゲーション制度」という。)を設けること。
(2)地方公共団体は、生物多様性を保全し、持続可能な地域社会を実現するため、単独で又は他の地方公共団体と共同して以下の施策を講じ、国は、それを財政的、技術的、その他の手法により支援すること。
①地域の生物多様性に関する保全管理計画を策定すること。②生物多様性を保全する持続可能な農業及び森林管理を促進するため,生物多様性保全に取り組む農林業者等への直接支払制度の拡充その他の経済的支援及び税制上の優遇措置を行うこと。③地球温暖化による生物多様性の減少を抑止するため,市民などによる持続可 能な再生可能エネルギー拡大のための施策を推進すること。
(3)国は,オーフス条約に早期に加入し,以下を実現すること。
①生物多様性に関する情報の公開制度を整備すること。②生物多様性に影響を及ぼす計画の策定,施策の実施及び評価(監視)に対する市民参加を権利として保障する内容の手続規定を整備すること。③市民が生物多様性保全のための環境訴訟などを提起できるように法整備し,環境団体が公益訴訟を提起する環境団体訴訟の制度を創設すること。
以上