弁護士 濱本 由
Aさんは、昭和56年に夫を亡くしました。二人の子供はまだ幼く、Aさんは大変な苦労をしながら子供を育てました。ある日、近所の人に遺族年金という制度があると聞き、Aさんは社会保険事務所に行きました。しかし、担当者は「ご主人の年金記録はありません。遺族年金は支給できません。」とAさんを追い返しました。その後、Aさんは何度も社会保険事務所に行き、夫の年金手帳を見せて遺族年金を受給したいと申し出ましたが、回答はいつも「ご主人の年金記録はありません。」というものでした。それでも諦めず、Aさんは社会保険事務所に通い続けました。
平成21年になって、ようやく夫の年金記録が発見されました。Aさんは、社会保険事務所の担当者から突然このことを聞かされ、なぜ今ごろになってと悔しい気持ちで一杯でした。それでも担当者にすすめられるままAさんは遺族年金の支給手続きを行いました。しかし、支払われたのは5年分の遺族年金のみでそれ以前の分は時効で消滅したと言われました。遺族年金の裁定請求ができなかったのは、社会保険事務所の担当者が夫の年金記録はないと回答し続けたためです。それなのになぜ、過去の遺族年金が時効で受け取れなくなってしまうのか、Aさんはどうしても納得がいかず裁判をすることになりました(主任は当事務所の藤原精吾弁護士です。)。
平成26年5月29日になされた大阪地裁判決は、社会保険事務所が組織的に不適切な年金事務処理を行っていた事実を認定し、Aさんの件で時効を援用することは信義則に反し許されないとして、国にAさんに対する遺族年金の支払いを命じました。素晴らしい判決で、Aさんは、幼い子供二人を抱えて死ぬ思いでここまでやってきた、自分の主張が事実と認められて大変嬉しいと喜んでいました。
そして、国も、一審判決の事実認定を覆すことは難しいと控訴を断念し、この判決は確定しました。長年にわたるAさんの苦労と努力が認められ、最良の形で事件を解決することができましたが、年金事務所に対しては、今後Aさんのようなケースを二度と生まないよう適正な年金事務処理を行ってほしいと思います。